最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)855号 判決
本件農地が、不在地主(被上告人)の所有する小作地であること、かつ本件農地は自創法五条五号にいわゆる「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」に該当することは原判決の確定するところである。尤も、右農地に関しては同法五条五号所定の市町村農地委員会又は都道府県農地委員会の指定のないことは、また、原判決の確定するところであるけれども、市町村農地委員会が農地につき同法三条による買収計画を樹立するにあたつて、その農地が本件のごとく客観的に同法五条五号所定の「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」に該当する場合においては、都道府県農地委員会の承認を得て同号所定の指定を行い、これを同三条の買収の目的から除外すべきものであつて、かくのごとき農地について、右の指定を行わずして買収計画を樹立するがごときは違法であるといわなければならない。然らば右買収計画に基く買収処分の違法なことは勿論であつて、右と同趣旨に出た原判決は正当であり、論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人石川金次郎、同伊藤俊郎の上告理由
原判決は、本件農地は近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地であるからこれを買収するのは違法であるという被上告人の主張について「およそ裁判所は行政庁と異なり意志表示的効果を持つ処分をすることは法の明文の存しない限りこれをすることはできない。ただ行政庁の行政処分が法令に適合するかどうかを判断して、それが違法であると認めるときはこれを取消し、又は変更することができるに過ぎない。従つて裁判所は近く土地使用の目的を変更することを相当と認めても、農地委員会のなすべき承認または指定を為すことはできないし、また農地委員会が承認または指定しないことは行政処分といえないから、それだけでは判断の対象とはなり得ない。しかし農地委員会が承認または指定しないことが社会的、経済的、歴史的諸条件から客観的に考えて違法であるのに更に進んで承認または指定しない農地を買収した場合には、承認または指定しないという違法性が買収の違法として争い得るものと解するを相当とする」と説示して自作農創設特別措置法第五条第五号の指定のない本件農地に対する買収処分を違法であると判断している。
自作農創設特別措置法第五条は政府は左の各号の一に該当する農地については第三条の規定による買収をしないと規定し、同条第五号として近く土地使用目的を変更することを相当とする農地で市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定し又は都道府県農地委員会の指定したものと規定している。即ち右規定によつて買収から除外される農地となり得るためには(一)近く土地使用目的を変更することが相当である農地であることのみでは足りず、そのほかに(二)市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定し又は都道府県農地委員会の指定した農地であることを必要とすることは法律が右の通りその要件を明確に規定している以上疑を容れる余地がない。しかし本件農地について同条第五号の承認又は指定のないことは当事者間に争がないとして原判決の確定している事実であるから、これを買収から除外せずして買収処分をしたのは何等違法でないと云わなければならない。
加之、右承認又は指定はいづれも行政処分であつて裁判所はこれらの行政処分が行われた後それが違法であると認めた場合にその取消又は変更を命ずることがあるに止まつて裁判所が自ら右承認又は指定或はこれに代わる行為をすることができないことは原判決の説示する通りである。
従つて裁判所が仮令農地委員会の右承認又は指定をしないことをもつて違法であると認めたとしてもこのことから当然に承認又は指定をしたことにはならないのは勿論、右指定のない農地に対する買収処分をもつて直ちに違法であると判断することは裁判所が自ら右承認又は指定をしたことと同一の結果に帰着し裁判所が濫りに行政の分野に立入るもので到底正当な法の解釈と云うことができない。
以上の理由により原判決は破棄せらるべきものである。 以上